Ⅴ:「お姉さんへ」:河野日出子(河野富子妹)

 富ちゃん、あの日からもう一年以上もたってしまいました。しかし私は日がたつにつれて、 あの忌わしい事件がまるでうそのような気がしてなりません。目を閉じただけですぐに浮かんでくるあの富ちゃんの笑い顔が、本当に私達の前からもう消えてしまって、いくら望んでみても一生、二度とあなたには会えないのでしょうか。あんなにいっしょうけんめいに自分の人生を大切に生きていたあなた。もっともっと生きて、もっともっといろんなことがしたかったでしょう。
 富ちゃんは本当に私にやさしくしてくれましたね。そしていつも楽しそうに、無邪気に笑っていましたね。富ちゃんはいつも何を考えていたのですか。何のためにあんなにいっしょうけんめいお芝居をしていたのですか。私はずっとほんの子供で、これから富ちゃんといろんな話をして、いろんなことを教えてほしいと思っていたのに・・・・・・。どうして、何もかも残して一人でいってしまったのでしょう。
 私達は小さい頃から仲のよい家族に囲まれて、本当に幸せでしたね。みんな富ちゃんのことを大好きでした。それなのに、ぽつんと富ちゃんだけがいなくなってしまうなんて・・・・・・。富ちゃんがあんな目にあうのを、だれも助けてあげられずに本当にごめんなさい。富ちゃんをあんな目にあわせてしまった、こんな世の中に私達はまだ生きています。どうして、何のために、あんな事故がおこらなければならなかったのでしょうか。そして、どうして生き残ってしまった私達は、何も、どうすることもできず、このくやしさを一生心にかかえたままで生活を続けていかなければならないのでしょうか。
 富ちゃん、もうすぐ春です。富ちゃんが大好きなあの愛媛の家のまわりに、れんげや菜の花が咲く頃です。大人になるにつれて、春のうららかな風や、まぶしい光に照れくささを覚えていた私ですが、今となっては、もう春も好きになれません。
 富ちゃん、私はどう生きていけばいいのでしょうか。富ちゃんを待っていてはいけないのでしょうか。笑い顔をつくって、ふつうの生活をしながら、むなしい心をかかえている私ではだめですか。
 「富子は、日本のこの愛媛の家に帰りたかったんだろう。何時間も飛行機に乗って、そして、この家に帰ってこようとしていたんだろう。」とお父さんが言いました。
 富ちゃん、飛行機の窓から、あなたの育った家の景色がみえましたか。帰りたくて、帰りたくて、そして、とうとう帰ってこれなかったのですか。
 富ちゃん、どうか安らかに安らかに眠ってください。心からそう祈るばかりです。

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