Ⅲ-3:ソ連大使パブロフに与える:武本昌三 (武本富子夫·潔典父)

武本昌三 (武本富子夫·潔典父)

ウラディミール・パブロフ――
お前にも妻はいるのか
もしお前に妻がいて
お前との久しぶりの再会を夢見ながら
お前のいる国へ向かう民間機の乗客であったとしたら
そして戦争でもないのに
どこかの野蛮の国の戦闘機に撃墜されてしまったとしたら
お前ならいったいどう思うか
運が悪かったとただだまってあきらめてしまうか
あまりの非道に
人間として夫として激しい怒りを感じないか

ウラディミール・パブロフ――
お前にも子供はいるのか
もしお前に子供がいて
実り多い外国での勉学
お前や母親の待つ国へ飛行機で帰る途中であったとしたら
そして軍用機でもないのに
どこかの粗暴な国のミサイルがいきなり撃ちこまれてしまったとしたら
お前ならいったいどうするか
仕方がないと平気でいられるか
あまりの悲しさで
人間として父親としてつきることのない涙を流さないか

ウラディミール・パブロフ――
お前の親はまだ健在か
もしお前にもまだ親がいて
遠い外国のお前やお前の子供たちを一目見たさに訪れ
楽しかった想い出を追いながら帰路の機内で安らかにまどろんでいたとしたら
そして敵でもないのに
お前の観や乗客のすべてをどこかの無頼の国の空軍が虐殺してしまったとしたら
お前ならいったいどういうか
乗った飛行機が悪ければ乗客も死ぬのが当り前だというか
あまりの理不盡を
人間として人の子として世界に訴えていこうとは思わないか

ウラディミール・パブロフ――
もしお前も人の子であり親であり夫なら
少しでもあたたかい血の通った人間なら
お前自身の耳で聞け
あの罪もないのに殺された犠牲者たちの血の叫び声を
お前自身の眼ではっきりと見よ
あれだけの尊い人命が北の海に無残に散らされていったのを
頭を深く垂れて恥ぢよ
お前たちこそ下手人であって野蛮であり粗暴であり無頼であることを

そしてパブロフ――
せめてひれ伏して謝罪せよ
人類の歴史の中に虐殺者としての
お前たちの汚名が永遠に刻みこまれる前に
天人ともに許さざる人道上の大罪を犯してしまったのは
ほかならぬ自分たちであったと

(一九八四年三月一日)

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