Ⅲ-2:中曽根首相への手紙:柄澤柴朗・幸子(井上聖子父、母/井上美和・陽祖父母)

柄澤柴朗・幸子(井上聖子父、母/井上美和・陽祖父母)

内閣総理大臣 中曽根康弘股

寒期未だきびしき折、

国会審議の多忙の節、折角、御自愛、御活躍の姿を拝見し、ただただ、感謝の一言に尽きます。

 本日、筆をとりましたのは、九月一日、あのいまわしい、想像に絶する悲惨な事故から、六ヶ月を経過し、三月一日、を迎えたからです。

 中国の孤児が、長い長い苦労の末、政府の援助で、故国、日本を訪れ肉親にめぐり合って、涙の対面の姿をみるにつけ、私達の娘とその子供二人は、いくら待っても帰って来てくれません。毎日毎日が、こんなにつらいものなのか、日時が解消してくれるとは思われません。

一、KALは何故、進路を間違ったのか。

二、シエミア、ニッピ、ニーバ等々の米国の通信基地が、何故、誘導出来なかったのか。どうして見殺しにしてしまったのでしょう。

三、成田管制塔との交信で高度変更等あったのは何故か。

四、ソ連の迎撃手順に重大な誤りがある、とのICAOの報告について、どう対処するのか。

 総理始め各閣僚から多くの見舞金をいただき御礼の申し上げようも御座いません。斯くの如き事態は、単なる交通事故でない事は、国民全体が先刻承知の事であります。

 大韓航空は勿論の事、ソ連の処置について、最大限の憤怒をぶつけても足りないのです。日ソ間の和平傾向は望ましい事であるが、我々民間人を犠牲にした行為は許し難い。政府としてはある種の制裁措置をとって来た事は承知しています。然し、最近になってそれが、順次、解除されています。結構な事と喜びたいのですが、単純に喜べないのが、私達の偽らざる心情です。

 私達は大韓航空に対しては勿論の事、ソ連に対して強く抗議し、その謝罪を要求し、賠償又は慰謝を請求する権利を留保するものであります。先に外相が訪ソし、外相会談の節、日本こそ平和促進の「あかしを示せ」と高圧態度に出た様に聞いていますが、ソ連からこそ、 此のKAL撃墜事件にこそ、その誠意を見せるべきではないでしょうか。それが、真の民間相互の信頼を復活する絶好の機会と思われます。

 北方領土の問題や、教育臨調等々内外の問題山積の国家多難の折柄、斯くの如き問題提起致しました一市民の余命幾許か知らねども、その切なる願を聞き届けて下されば幸甚に存じます。

 末筆になりましたが、KALの合同慰霊祭には、運輸大臣から弔辞をいただき、有難く御礼申し上げます。

五十九年三月一日

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