Ⅲ-1: チェルネンコ書記長への手紙:羽場由美子 (羽場弘樹母)

羽場由美子 (羽場弘樹母)

チェルネンコ書記長様

 日差しもやっと和らぎ東京にも遅い春がやって来ました。チェルネンコ書記長様にはお元気で日々お過しの事と存じ上げます。

 大韓航空機撃墜事件から七ヶ月が過ぎました。私達遺族がどの様な思いで此の七ヶ月を過ごして来ましたか到底言葉で表わす事の出来ない程の悲しみと苦しみでございます。日がたつにつれて尚更息子の一つ一つの思い出が目に浮び、話し声や笑い声迄聞こえてきます。皆自分の生命より大切な者を失ったのでございます。

 大韓航空機撃墜事件は私達遺族だけの問題ではありません。世界中の人の問題であり、世界の歴史にも残る大事件です。ましてや、民間機を撃墜したというだけでなく、遺体や遺品を返さないという事は人道上許される事ではありません。私は政治的な難しい事はわかりません。只チェルネンコ書記長様のお人柄を信じてお願い致します。あの事件以後の息子の事をお知らせ下さいませ。もし本当に死亡したのなら遺体と遺品を返して下さいませ。

 先月のお手紙でもお願いしましたように、せめて、あの子の生まれて育ったこの東京の土に、肉親の側で安らかに眠らせてやりとうございます。そして二度と此の様な悲惨な事件がおきないためにも是非軍縮をお願い致します。世界に本当の平和が訪れるか否かはチェルネシコ書記長とアメリカ大統領の手中にあります。どうぞ平和を願う全世界の人々の声をお聞き届け下さいます様切にお願い申し上げます。

 二六九名の人達も平和のために犠牲になり、平和を願って昇天してゆきました。どうぞ犠牲者の御霊に手を合せて下さいませ。そして世界平和のための御努力を御願い申し上げます。

 チェルネンコ書記長様には、どうぞ御身を御大切に御自愛下さいます様、御健康をお祈り申し上げます。

昭和五十九年四月一日

かしこ

チェルネンコ書記長様

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