Ⅰ-2:未だ帰らぬ娘を待ちながら:北尾忠利 (北尾ひとみ父)

北尾忠利 (北尾ひとみ父)

 毎朝、塩燭に火を灯し、線香をあげ、遺体は勿論のこと遺品の一部もない真新しい仏壇の写真を眺めながら「ひとみ、ニューヨークを出発してからもう六ヵ月を過ぎたがまだ何の音沙汰もないが、一体何処を徘徊しているのかね」と問いかけると、「アメリカ在住の姉妹家族と久し振りに再会し、一緒にカナダ旅行も楽しみ、土産話と土産品を一杯かかえながら日本へ帰る途中、何故私がKAL007と共にサハリン西方のモネロン島近くの海底深く沈んで行かねばならなかったのかさっぱり判らぬ」と恨みを込めて絶叫しているように聞えてくる。

ICAOの最終報告書を読むまでもなく、KAL007が正規のルートを飛行していてくれさえしたら、このような撃墜事件は決して起こらなかったに違いない。更に、この真相解明の最大の鍵を握っているブラックボックスが、宇宙旅行も夢でなくなった科学万能のこの時代に、米・ソ両国の船艇による捜索活動にもかかわらずついに発見されなかったことは、ブラックボックスの発見が米・ソ両国にとってお互に都合の悪い部分があり、本事件の真相を迷宮入りにしようと意図的に画策したと疑わざるを得ない。

 KALの航路逸脱は勿論のこと撃墜に到るまでの詳しい真相を糺してゆくために、あらゆる努力を続けて行くことが、われわれ遺族に課せられた使命であろう。

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