Ⅳ-4:大韓航空機事件について:宮田洋子(河野富子姉)

宮田洋子(河野富子姉)

 あの悪夢の日々から早や半年以上もたちました。今でも長くて恐しい夢を見続けている様な気持です。遺体が見つからない以上私たちはまだ遺族ではなく家族なのです。この眼で見るまではぜったいに信じられない。今にも電話がなってなつかしい声が私の名を呼ぶようで、公園の向こうから手を振りながらやってくるようで、いたたまれない気持でいっぱいです。事件についていろいろな憶測がなされています。しかしいったい何が真実なのかいまだにわからず影に何か大きな秘密が隠されている様な気がしてなりません。その上ソ連からは正式な謝罪すらなく、このままでは妹はまったくの犬死ではありませんか。もし本当に撃墜されて死んでしまったのなら、妹の受けた恐怖や貴い命の損失はいったい何によって償われるのでしょうか。今もまだ寒てつく海の底に漂っているかもしれない妹のことを思うと哀れで、どこにもぶつける事のできない怒りがこみ上げます。せめて真実が知りたい。どんな残酷な結末であろうと訳のわからないままよりはずっとましです。これが不可抗力の事故ならまだあきらめもつきます。月日がたてばいつか少しは悲しみも薄らぐかもしれません。しかし大韓航空機に乗ったある人々は事故ではなく故意に撃ち落とされたのです。皆死んでも死にきれない気持でしょう。皆未来に夢と希望を持っていただろうし、久しぶりに家族や親しい人人に逢えるのを楽しみに機上の人となったに違いないのです。その夢を一瞬にしてうちくだくこの事件はどうあっても忘れてはならない。許してはならないのです。やむを得ず日常の雑事に追われながらも、この怒り、くやしさは一瞬たりとも胸から去ることはなく、夜ふとんに入るとなつかしい面影が浮かんできて、いつの日かきっと逢える事を信じて日々を過ごすしか私たちには為すすべがないのです。

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