Ⅳー32:遭難韓国機に知人の娘さん:杉原長子 (柄沢紫朗知人)
朝、友だちからの電話でアッと驚いた。あわてて新聞に目をこらす。撃墜された大韓航空機の犠牲者の中に、テニスの大先輩K氏の娘さんが入っておられたのだ。
前夜、撃墜されたもようとのニュースに、「旅客機なのよ。子供も乗っているのよ。三歳と十五歳だって。そんなことってあるかしら」といきまいた私である。撃墜は誤報で、ぜひ無事にどこかの空港に着陸していてほしいと祈る思いであったのに。
夏休みの間、コートでしばしばK氏にお目にかかった。「娘が主人の所に出かけちゃってね、長男が残っとるもんだからその世話しに家内がいって、いま一人だ。夕飯こしらえなきゃならんよ」と、いかにもお手上げだとばかりにボヤいていらした。でも、その目はうれしそうだったのを思い出す。
いま新聞を前に、どうして、どうしてと思ってしまうのです。撃墜という言葉は戦争用語ではないのですか。いかに領空侵犯とはいえ、もっと他に方法がありそうなものじゃないですか。本当に無念です。残念です。
五十九年度、防衛庁は、一機百十六億円もするというP3C対潜哨戒機をはじめ、F15迎撃戦闘機などの新兵器購入を予算に組み入れている由。アメリカもソ連もそして日本も、このふくらむ一方の防衛費の行き着く先がどんなものか。はしなくもその一端をのぞかせたのが今回の旅客機撃墜ではないかと、怒りがこみ上げてくるのです。
青い空はみんなのもの。どこの空も自由に、安心して飛べる日が来ることを祈るや切です。Kさん、元気を出して下さい。お体をお大切に。
(昭和五十八年九月七日朝日新聞「ひととき欄」掲載)