Ⅳー30:世界平和を願って:高比良綾子(岡井葉子母)

 北部九州の梅雨明け宣言のニュースを聞きながら私は、昨年のちょうど今ごろの事を思い起こしています。
 ボストンで結婚した娘夫婦から、八月の末には帰国出来そうだといううれしい便りをもらったのでした。そして、あの信じがたい悪夢のような出来事。九月一日未明、サハリン沖の上空でソ連戦闘機から無残にも撃墜された、大韓航空機の犠牲者二百六十九人の中に、私の命よりも大切に思っていた娘夫婦が同じ運命の下に消え去ってしまいました。あれからもうやがて一年になろうとしていますが、スパイ機だとして撃墜されたということ以外、いまだに真相究明はなされておりません。何という情けない事でしょう。たとえどんな理由で領空侵犯がなされたとしても、民間機をミサイルで撃ち落とすとは人道上決して許すべからざる残虐行為だと思います。
 先日、テレビのニュースで、あろう事か、この時に撃墜命令を下したソ連の一将軍がその後、国防次官に昇進させられていることが放送されました。私の胸は怒りと悔しさではりさけそうです。私共遺族に対して一言の謝罪もなく、自分の国だけを守ったら他国の人の命などなんとも思わないのでしょうか。超大国のエゴとしか思われません。どうかこの現実を知ってください。決してひとごととは考えないでください。二度と再びこのような蛮行がなされないことを心から願ってやみません。(毎日新聞七月二十三日付朝刊掲載)

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