Ⅳー27:遺児を守して:祖父白石茂(七六才・山口三喜雄義父)・孫白石泰慶 (二才・山口三喜雄長男)
「生涯をかけて育てん父亡き孫
余命幾何ありやその日まで」
全てに優先して遺児を守したいと思う。雨さえ降らなければ、孫を自転車に乗せて近くの河川敷に遊びに行くことにしている。途中幾つかの信号がある。
「青信号ペタルを踏めば孫も亦
早く渡れとからだゆすりぬ」
日蔭には残雪見ゆる春まだき
「まだいける孫の手をとり一踏張り
江戸川堤枯草柔」
疲るれば自転車に乗せられたまま眠り始め、安眠出来ぬと怒ることも度々あるが、無事に帰れば
「疲れしや我が組み足にもたれつつ
軽きいびきし安らけき孫」
食事時など大人集り孫の話に花が咲くこともある。
「非難めく言葉浴びれば幼係は
からだ反らせて抗議するが如し」
暑さには汗を流し、寒さには防寒具に身を固め、孫のため大いに尽したつもりであったが、振り返り見れば孫も赤、此の冬一度も風邪ひかぬ私にしてくれていた。
「叱られて尚慕ひよる幼な孫
心せまきに悔い残す我」
鍛錬するつもりが鍛練させられているし、教育する意が教育されている。
天は実に公平至妙、老若男女を別たず蒔いた種子を刈りとらせてくれる。