Ⅳー25:目標:真野良子 (真野小百合母)

 昨日夢を見ました。
 白いTシャツに黒っぽいジーパン姿
 小百合が玄関に立っているのです。
「ただいま、おかあさん。」
「おかえりなさい!」
 片足をあげてサンダルをぬいで私を見てもう一度云いました。
「お母さん、ただいま。」
「おかえりなさい。」私は答えました。
 ふと左端に水晶のお球子を持った二人の姿がありました。誰だかわかりません。
それきりです。
 夏です。お盆です。「だから帰って来たのヨ」とほとんど皆様方がおっしゃいます。けれど私にはそれはおかしい話なのです。日に日に娘の死を信じられなくなっているのですから。
 昨年の七月の今頃は、九月から半年間一緒に暮らせる楽しみを一ばいかかえて待ち望んでいたのですもの。どこへいったのでしょうね……。
 電話のベルで時々ハッとする時があります。あわてて取る受話後は無情の声で事務的です。かかって来る筈はないのに娘の声を耳に残して居ります。私には相手に失礼な声を出して応対している時もあります。
 おそるおそる広げて見る娘の日記の中にこんな一ページを見ました。

      目  標             一月二十九日  高校生

一 明日の英語のテストが完全であれば決心して実行
一 完全でなければとかもしとかは今は無であること
一 目標達成のため今は私に死が訪れないことを祈る
 何気なく開いたページに、私は大粒の涙を落しました。云いしれぬ怒りが全身を燃え立たせていました。ソ連やアメリカや大韓航空を責めるとか追求するとかよりも、別の感情の方が今の私を支配してうつろです。唯真実を知る方法がないものかと毎日考えてます。
 ほんとに消えたのならどこへ? どうして? どこまで? ・・・・・・
 又激しい怒りが涙をそそります。
 「目標」それをうばい取ったあなた!! どこにいますか?
 九月一日 もうすぐです。どういうふうに迎えましょうか。静かに両の手を合わせられる私になるのには、何度目の九月一日を迎えるのでしょうか。

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