Ⅳー20:九ヶ月経った、今:小野高子 (中沢建志叔母)

 昭和五十八年の九月一日、あのいまわしい大韓航空機事件の渦中にまき込まれ、義理の甥である建志君は、あたら若い命をオホーツクの海に散らせてしまったのです。
 あれからもう十ヶ月が過ぎようとしているのです。然しあの日以来、義兄の家族は割り切れない気持で昔を偲び、追憶に想いを馳せるばかりなのです。いくら太陽が照り輝き、美しく咲く花を見つめても、心の晴れることもなく、何かわだかまりを感じるとしても当然すぎることであり、御両親の心情は本当に察しようもありません。もし時間を戻すことができるのなら、もし、あの日の航空機に乗る前の状態に戻すことができるのなら、「もし・・・・・・なら」とかけがえのない息子を失った、悲しさ、怒り、くやしさに、ありし日のことを想い出す度、以前にも増してとめようのない涙を流しておられることと思います。でも私には、その涙をふいてあげることはできても、涙をとめてあげることはできません。そうです、十ヶ月あまりたった今でもお慰めすることばが見つからないのです。御両親の深い悲しみは理解できても、その傷心の気持を和らげるすべを知りません。せめてこの上は、御家族の皆様がお体を充分御自愛なされ、建志君の分も含めて強く生きていかれることをただただお祈りするだけでございます。

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