Ⅳー1:いつの日にか帰ってくる:美濃部美緒子 (大背戸みどり長女)

 「大韓航空機の事件は、アメリカのスパイ活動の犠牲になったんじゃない?」御近所の方に突然そう言われました。「そうなのよ。イケニエね。」私の答はまるでヒトゴトです。五年前のムルマンスクのこともあるし、みつかっても不時着ぐらいで済むさ―そう耳うちされた大韓航空の機長は、一体何と引きかえにこの危険極まりない綱渡りを承知したのでしょう。もうお芝居は結構です。ソ連の誘導電波にかかった?いつも飛んでいる地形と違うことぐらい、ベテランのパイロットが気付かぬ筈がありません。撃墜される直前まで東京と交信していたくらいですから、通信装置は正常だったのでしょう?何とでもしてコースをもとに戻すことぐらい出来た筈です。あと僅かで帰国できることを信じてまどろんでいたであろう乗客、一体どこへ雲がくれしてしまったのでしょうか。貴女のお母さんは、あの飛行機に乗っていて撃墜され亡くなったのです・・・・・・こんな一言で信じられることでしょうか。遺体も遺品も何ひとつないまま、ひとつの区切りとして葬儀を執り行った私たちの気持を、一体誰にわかってもらえるというのでしょうか。いつの日にか帰って来ることを信じて、私たちはこの住居を変える気になりません。母の知っている私たちの住居は筑波研究学園都市のこの場所だからです。

 最近、娘のクラスメートが渡米しました。追うように出した娘の手紙には・・・必ず帰って来てね。私のバアバはアメリカへ行ったきり帰って来なかったんだよ・・・とありました。

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